今回は、3000万DL越えのアプリ「TimeTree」のiOSエンジニアでいらっしゃる佐藤新悟さんがご登場!新卒でヤフーにご入社されてから、まさにiPhoneの登場と共にアプリ開発の道を歩み続けられたもはや最長のiOSアプリ開発歴を持つ超絶ベテランエンジニアとして、開発の魅力や、これから未来を作るエンジニアに向けてお話を頂きます!
プロフィール
佐藤新悟(さとう・しんご):以下「佐藤さん」
共有カレンダーアプリ「TimeTree」のiOSエンジニア。新卒でヤフーに入社後、iPhone登場初期からアプリ開発に携わり、ヤフオク、ニュースなど多くのサービスを担当しました。2016年10月よりJUBILEE WORKS(現:株式会社TimeTree(TimeTree, Inc.))に参加。個人でも陣痛時計、ごみの日アラームというアプリをリリースしています。Perfumeエバンジェリスト。
詳しくは本インタビューで!
インタビュワー
“最古参のiOSエンジニア”が今向き合っているモノ
―――早速ご登場いただきましょう!iOSエンジニアの佐藤さんですー!本日はどうぞよろしくお願いいたします!
よろしくお願いします。
―――まずは、ご経歴もふくめて、簡単に自己紹介をお願いします!
はい、iOSエンジニアの佐藤新悟です。2006年にヤフーに新卒入社して10年位エンジニアとして勤めました。最初は、当時スマホも無かったので、Web開発で主にPHPを担当していました。具体的には、今はもうありませんが、「Yahoo!メッセンジャー」というサービスの担当でした。
当時から僕自身がMac好きを公言していたのもあって、Mac版のクライアントアプリ開発にアサインされてそちらを行っていました。iOSについては2009年くらいから社内で案件が増えてきて、それに伴って僕も開発経験を重ねてきた感じです。一時期Androidを触ったりもしていましたが、基本的にはずっとiOSの担当です。
―――なんか…iOSエンジニア歴、日本で最も古参でいらっしゃるのでは!?
そうですねぇ。だいぶ長くなりましたね…(笑)
―――ヤフーをご退社の後、現在のご所属先へ?
はい、株式会社TimeTreeに移りました。実は、以前ヤフーから出向していたジョイントベンチャーで動いていた4つのプロジェクトがあり、その中の一つを担うメンバーで創業したのが株式会社TimeTreeでした。
出向当時僕は別のプロジェクトにいましたが、彼らの優秀さはよく知っていましたし、そんな信頼できる人達からアプリリリースの後声を掛けてもらったことで入社は即決しました。以降は、TimeTreeの機能追加や改善を担当してきました。
―――なるほど!メンバーの方々とも元々気心やスキルの知れた旧知の仲でいらっしゃったわけですね。拠点を移してみて今は率直に、どうですか?
iOSアプリ開発業務は以前と同じようにやっています。違う点としては、ヤフーではリーダーになって管理業務なども担当していましたが、TimeTreeは上下関係のないフラットな組織なので、管理職という役割が存在せず、開発にフォーカスできるようになっています。
僕は「作る」のが好きなので、その意味では今の方が楽しいですね。ヤフーもWeb業界なので色々自由ではありましたが、弊社は更にそこで「ココを変えたい」という願いを体現した会社なので、より自由に振り切った組織を作れているイメージです。
―――選び抜かれたスキルと理想との融合、素敵ですね。
―――「TimeTree」といえば、2021年2月時点で3600万ユーザーを超える、家族やカップルのためのスケジュール共有カレンダーアプリです。
【?】「TimeTree」とは?
共有を前提に作られたカレンダー
TimeTreeは、予定管理の方法を「共有とコミュニケーション」を前提にして作られました。例えるなら、リビングの壁掛けカレンダーがスマホの中に入ったようなイメージです。とにかく簡単に共有できること、カレンダーの中でコミュニケーションできることが特徴です。
TimeTree【タイムツリー】 – グループでのスケジュール共有とプライベートの予定管理ができるカレンダーアプリ
―――今更にはなりますが、大ヒットしたアプリ「TimeTree」について、ヒットした最大の理由を、開発者としてのお立場から聞かせて頂けますか?
そうですね…一番は、特に“家族(夫婦・お子さんが居る家庭)で予定を共有する”という機能が刺さったのだと思います。よく聞くのが「言った言わない論争がなくなった」。
このように家族での利用が広まって、そこから習い事や他のコミュニティのスケジュール管理で広がったのかなと。現在、個人のお店や小さな会社で使われる事例も結構あるようです。
―――今後「TimeTree」はどのように変わっていくのでしょうか?
「TimeTree」は、スケジュールアプリの形をしてはいますが、元々やりたいことというのはもっと広いんです。ベースには弊社HPでも掲げている「世界中の人々がよりよい明日を選択できるようにする」があります。
世の中の予定を知ることができて、そこからより良いものを選び取れるようなアプリを目指したいと考えながら日々画策中ですが…ここから先は、業務上お話できない部分でもありますね(笑)
―――ありがとうございます(泣)!楽しみにしております。
プログラミングとの出会いと、iOSアプリ個人開発
―――佐藤さんというお人については、様々な記事から、古のMacユーザーというイメージが強いです(笑)iOSにフォーカスされる理由としては、やはりそこが入口になったでしょうか?
「iPhone」という製品が開発されたことは完全に結果ですが、Appleのプラットフォームに入り込むきっかけはやはり父親がMacユーザーだったことで、僕自身コンピュータを触るのが幼少期から好きで、ずっとMacしか触ってこなかったことが大きいかもしれませんね。
ハードもソフトも一貫した美しさが感じられて、大学の研究室でも一台だけ置かれていたMacを自分用に使わせてもらったりしていました。当時Macはデザイナーさんのような人達が主に使うイメージで、おしゃれぶってる、って周りにからかわれたりもしました(笑)
【?】佐藤さんの幼少期のご経験についてはこちらでも書かれています。
―――徹底しているぅ!(笑)最初に触れられたのはペイントソフトでしたよね。
最初はペイントソフトでお絵描きしたり、中学生時代には「ハイパーカード」というボタンやテキストを配置することで簡単なアプリケーションが作れるソフトでプログラミングしていました。そこからどっぷりとプログラミングにハマっていきましたね。
―――ご自身でプログラミングして何かを作るという活動のベースになったのですね。個人開発でリリースされたアプリも有名なものばかりですが、これらについても伺えますか?
「陣痛時計」を2011年に、「ごみの日アラーム」を2013年にリリースしました。
【?】「陣痛時計」とは?
陣痛時計はボタンをタップするだけのかんたんな操作で陣痛の間隔を計測できるアプリです。妊婦の方が病院へ連絡するタイミングを計るのにご利用いただけます。時計の秒針を見ながら紙にメモをするといった手間はいりません。痛みが始まったら「スタート」をタップ、おさまったら「ストップ」をタップするだけで、痛みの間隔と持続時間を記録できます。
「陣痛時計」をApp Storeで
【?】「ごみの日アラーム」とは?
ごみの出し忘れをなくして、部屋も気持ちもクリーンに。毎月第1、第3水曜日のごみの日をつい忘れてしまう、なんてことありませんか?「ごみの日アラーム」はごみの日を忘れないように通知するシンプルなアプリです。
「ごみの日アラーム」をApp Storeで
―――いずれも“生活に寄り添う”機能が印象的です。このようなアイディアはどこから湧くのでしょう?
個人開発では、「自分が日常で実際に使うものを作る」のがやはり面白いので、それがきっかけだと思います。
『陣痛時計』は、他の記事でも書いていますが、一人目の子供が生まれる時に、女性は陣痛の時間を測ってそれを目安に病院へ行くという話を聞いて、その助けになるものをと思い作りました。
一応既存のアプリでも似た機能のものを見つけたんですが、あまり使いやすくないなと思って、自分で作ってみようと。あとは、出産にあたって父親に出来ることが本当に何もなくて…少しでも役に立てればいいなという思いがありましたね。
―――こんな旦那さん素敵すぎません!?
―――「陣痛時計」、既存アプリを超えるばかりか大ヒットアプリとなりましたが、結果的に差別化を成功させた理由や開発でこだわった個所はどこでしょうか?
使うシーンをちゃんと考えて作ることですね。個人アプリではユーザーインタビューを行わないので、まずは自分が使うかどうかですが、「陣痛時計」の場合、奥さんには一番のテストユーザーになってもらいました。
基本的に機能は既存のアプリとほぼ変わりませんが、例えばこのアプリは本当に死ぬほど苦しいタイミングで使うアプリなので、「ボタンが押しにくい」といったことはありえないと思い、タップ領域をなるべく大きくしました。
また、iPhoneの場合一定の時間が経過するとロックされてしまう仕様があり、その自動ロックを避ける機能を付けたりとかですね。あとは、使って貰うためには、デザインの良さも大切だと思っています。
―――カッコ良いだけでなく使いやすさに照準を当てたデザインですものね…「陣痛時計」リリース10年目の今、改めて開発者として所感を聞かせてください!
最近は、結構大手が陣痛計測のアプリを出しているので今はあまり使われては居ませんが、一応スタンダードを作れたのかなという自負はあります。
iOSアプリ開発の魅力
―――佐藤さんというと開発時に「Appleの標準に忠実」という点を推されているのも印象的でした。この重要性について改めて伺えますか?
たとえば、UIにはある程度存在している文法のようなものがあって、それをちゃんと守ることが使いやすさに繋がります。Appleの提示するガイドラインを守っていないと、使っていてもなんとなく気持ち悪かったりするんです。ちょっとした動きの違いで違和感があったり…
アニメーションを閉じる秒数なども、大体この動きには何秒掛けるといったルールは決まっていて、それに合わせて開発することで、触っていて気持ちの良いアプリを作れると思います。Appleの標準に沿う方が、実際にデザインもしやすいですしね。
―――チーム開発では、デザイナーさんとのすり合わせも必要ですよね。
弊社ではデザイナーとエンジニアで議論してどういう方向性で開発を行うかを一緒に決めていきますが、同じ機能を実現するのにも方法は様々あります。デザイナーさんが思い浮かべるやり方だと結構大変だなという時には、Apple標準で用意されている仕様を提案して方向修正することもありますね。
―――個人開発でも現在のお仕事でも大切にされているのは、やはり実生活との繋がりでしょうか。
自分の実生活に結びついていて、自分自身が使うものでないと興味を持てないので、そういうアプリを作りたいとは常に思っています。弊社に移った時も、日常生活に関わるアプリ開発だという点が、興味を抱けたきっかけでした。
個人開発は、そもそも好きなことを際限なくやれるのが魅力ですし、ヒットさせる為ではなく「自分が欲しいもの」を好きに作ることを大切にしています。
「ごみの日アラーム」も、一月に数回だけ例えば金属ごみの回収日があって、それを忘れちゃうから、忘れないために専用のアプリを作ろうというのがきっかけでした。作ってみたらたまたまウケたという感じですね。
―――そもそものクオリティの高さがビシバシ伝わってきます…
―――改めて、佐藤さんにとって「iOSアプリ開発の魅力」とは一体何でしょうか。
「作るのが楽しい」ということだと思います。中学生の時、最初にハイパーカードでアプリを作って感じた「楽しかった!」はずっと変わっていなくて、その楽しさだけでこれまでずっとやってきています。
―――「作るのが楽しい」について、もう少し詳しく伺えますか?
そうですね…アイディアが形になって実際に動くところが面白いんだと思います。例えば、仕事ではデザイナーがデザインを起こしてくれてモック(モックアップ(mock-up)」=アプリのビジュアル完成イメージ)ができますが、実装するまでは、それは一枚の絵です。でも、実装すると動きます。命が吹き込まれる感覚になって、だから動いた瞬間に充実感をおぼえるんだと思います。
―――とんでもなくロマンチックな話を聞いてしまった気がする!株式会社TimeTreeの「部活」であるマイクラでも、アプリとは違うものの、実装に近いことをされていらっしゃいますよね。
マイクラとプログラミングには、共通の面白さみたいなものがありますね。実際ゲームの中で機能を持たせたり、美しい建物を作るようなこともしているので…見た目と機能とを兼ね備えたものを作るという意味で、時々「これ仕事と変わらないな」と思いながら、部活と称して楽しくやっていますよ(笑)
―――佐藤さんにとって、部活含め、チームなりの楽しみはありますか?
「TimeTree」では、やることは無限にありますし、個人アプリでできない規模感の開発ができるのは非常に楽しいですね。規模が大きくなると、チームならではの開発になりますし、開発しながらメンバー同士で互いにレビューし合えるので、そこで学べることも多いです。
―――今後の夢や実現されたい目標などについても聞かせて頂きたいです!
基本的に、あまり先を見据えてはいないんですよね(笑)常に好きなことをやってきた感じで…でも、やっぱりものを作ることが好きなので、この軸は変わらないと思います。
―――iOSアプリ開発は変わらずお続けになられますよね?!
今のところ場所を変えることは特に考えていませんが、僕自身は「エンジニア」なので、今後別のプロジェクトをやることももちろんあり得ると思います。
アプリについては、好きだから作っているという形です。結果的にユーザーが多いので作ったモノを沢山の人が使ってくれるのが魅力的ですし、標準のUIを使うだけである程度美しいものができる点も良いなぁと。AndroidにもAndroidなりの良さがありますが、やはり僕はiOSが好きなので。
駆け出しエンジニアへのアドバイス
―――今後、iOSアカデミアを始めとしたスクールの存在もあり、エンジニアの母数は増えるのではと考えております。こういう社会や業界の動向ついて、佐藤さん個人はどうお考えになりますか?
根本的に、モノづくりに携わる人が増えることは喜ばしいと考えています。今わからなくても、やりながらiOSの魅力にはまっていく場合もあると思うので、まず「やる人が増える」というのは良いことかなと。
―――懸念点もあるでしょうか。
作ること自体に興味を持っていないと厳しい世界ではあるんじゃないかなと思います。単に稼ぎたいからという理由で業界に入ってくると、苦しくなるかもしれません。
それから、僕はiOS初期からiOSアプリ開発をやっているので、今とは状況も全然違っていました。今の人には今の人なりに、やりやすさと大変さの両方があると思います。
僕はAppleが発展していく過程と共に徐々に学んできましたが、今はそういった発展の先で、スクールも動画コンテンツも豊富にあり、学ばなきゃならないことも沢山あります。これがプラスに働く側面もあるとは思いますが、「どこから手を付けたらいいのだろう?」という部分がまずは大変かなと。
―――なるほどー…!!!!エンジニアとして最低限必要とされる素質、のようなものはありますか?
何事にもそうですが、あまり手抜きの方法や近道があると思わず、なんであれコツコツできることかなと思います。もちろん実際に効率の良いやり方は色々ありますが、結局地道に基礎的なところから理解していかないと、長期的に見てもちゃんとしたエンジニアにはなれないのかなって。
―――至言…!それでは逆に、佐藤さんと一緒に開発を行うエンジニアさんのように優れた方達は、皆さんどのような点が優れていらっしゃるでしょうか?
スキルレベルはエンジニアごとにバラバラなので、当然個人ごとに差はありますよ。でも、大事なのはそこから自分で学ぼうとする人なのかどうかという点だと思います。
今一緒にやっているエンジニア達は、たとえ今スキルや知識で足りていない部分があっても、放っておけばできるようになるだろう、わかるようになるだろうと思えるような人達です。僕より若い人の方が場合によっては知っている新しい技術や知識もありますし、それがきっかけで僕自身学ぶこともあります。自走力は大切ですね。
―――「自走力」、ずしっときます。
何かを学ばなきゃならないという場面で、どこから情報を選べば良いかというような最も最初のところから自分で動いて学んでいける人は、やっぱり強いと思います。身も蓋も無い言い方になりますが、極論Appleの公式ドキュメント等を、逃げずに自分で確認できるかとか、そういうことですね。
―――的確なご指南ありがとうございます…!最後に、これからプログラミングを学ぶ人や駆け出しエンジニアに向けて、アドバイスを頂けますか?
プログラミングでは、何か自分で作りたいものが具体的にあれば、学ぶモチベーションになるし、成長も早いと思います。単に「プログラミングが出来るようになりたい」ではなく、まずは「こういうことを実現したい」「こういうものを作りたい」から考えていくと良いのではないでしょうか。大変なこともありますが、ぜひ自分の道を切り開いていってくださいね。
インタビューを終えて
物腰柔らかで終始丁寧に言葉を紡ぎながら、一つ一つのご発言に今までのご経験と研鑽の重みをひしひしと感じざるを得ない佐藤さん!ただひたすらにプログラミングに魅了され、ものづくりの道を走り続けるお姿は驚くほど純粋で光に満ちて、そして優しさに満ちています。昔とは異なる環境を生きるエンジニアに向けても、身になるアドバイス感謝です!本日は貴重なお話、誠にありがとうございました!
佐藤新悟さんの…
iOSエンジニアになりたい方に向けて
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監修者
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エンジニア経験0の状態から1年間独学で勉強して独立
さまざまなiOSアプリの開発に携わる
2021年6月にiOS専門のオンラインプログラミングスクール「iOSアカデミア」を開校。iOSエンジニアを目指す人のサポートにも力を入れています