「僕一人でできることは限られている、だからこそ」iOSエンジニアからマネージャーへキャリアアップされた坂田さんの、プロダクトのための組織作りとは
エンジニアのキャリアアップとして、将来就きたいと考える人も多いポジション「マネージャー」!今回は、ヘイ株式会社にてマネージャーとして活躍される坂田さんをお招きして、エンジニアリングとマネジメントというお仕事における関連や違い、人を動かすことの醍醐味について詳しくお聞きしてみました!
プロフィール
坂田 晃一(さかた・こういち):以下「坂田さん」
2011年iOS 4の頃からiOSアプリの開発をスタート。2015年からは当時フリマアプリの「FRIL(フリル)」の開発をしていた株式会社Fablicで、iOS/Androidアプリの開発に参加。吸収合併にともない楽天株式会社へ転籍してからはマネージャーとしてエンジニア採用を始めとした組織づくりを経験。2020年フリーランスのiOSエンジニアを経て、2021年からはヘイ株式会社で再びマネージャーとして組織づくりに挑戦中。iOSDC Japanのスタッフなどコミュニティ活動もしています。
インタビュワー
マネージャーというお仕事
「コードを書く」からは遠ざかった現在
―――早速ご登場いただきましょう!坂田さんです!本日はどうぞよろしくお願いいたします!
よろしくお願いします。僕、今はあまり表でコード書かなくなっているので「iOSアカデミア」の現役iOSエンジニアのインタビュー記事として大丈夫かなっていうのはちょっとありますが…(笑)
―――もちろん大丈夫です!キャリアの経緯についても後程伺いたく思いますが、坂田さん、現在はマネージャーとしてご活躍されているとか。
はい。今働いているのはヘイ株式会社というところで、会社としては、個人の方も含めて日本全国でさまざまなお商売をされている方向けに、お商売のデジタル化を支援するサービスを提供しています。僕自身はエンジニア組織の中でシニアマネージャーとマネージャーを兼任しています。
「エンジニアリングマネージャー」というお仕事
―――坂田さんの現在のお仕事である「マネージャー」について、詳しく教えて頂けますでしょうか。
はい、まず「シニアマネージャー」については、マネージャーのマネージャーという立場です。
もう一つのマネージャー、これは世間では「エンジニアリングマネージャー」と呼ばれているものです。僕はこの「エンジニアリングマネージャー」として、社内のiOS開発チームのマネジメントを担当しています。
エンジニアリングマネージャーの仕事には一般的には4つの領域があると考えています。「ピープルマネジメント」「プロダクトマネジメント」「テクノロジーマネジメント」、そして「プロジェクトマネジメント」の4つです。
僕の場合、プロダクトマネジメントは社内にプロダクトマネージャーがいるのでそちらに任せたり、技術的な部分については開発メンバーに自走力があり皆優秀なので、彼らを尊重して任せている状態に近く、立場的には、ピープルマネジメントの領域が一番大きい状態です。あとは、必要なエンジニアを迎えるために採用担当もしています。
―――「ピープルマネジメント」というと、いわゆる「人材管理」に近いでしょうか。
うーん…人員を割り振るというよりは、メンバー一人一人に対して本人のキャリア志向や希望等を聞きながら、どういう仕事してもらうかとか、あるいは先に進むうえで障害や本人のモヤモヤした感情があればそれを取り除くのを手伝ったりという感じですね。人を管理するというより、人が活躍する場を作る仕事だと思っています。
―――カウンセラーさんのような…
近いものがあるかもしれません。何事もメンバーと話し合って決めていきます。メンバーに活躍してもらえないと良いプロダクトってできませんからね。もちろん組織の構造上僕がメンバーに指示を出すこともありますが、基本的には応援したりケアするといった立場に近いと思っています。
エンジニアからのキャリアアップ「マネージャー」の専門性
―――自走力のあるメンバーの方々を一つにまとめるのは骨が折れそうです。
僕たちは皆この「ヘイ株式会社」という会社の中に居て、そもそも会社の事業や「Just for Fun」というミッションにに共感して集まったメンバーというのもあり、そこはそれほど苦労してはいません。
たとえ意見が分かれていたとしても、根っこにある方向性が揃っていたら間違ったことにはならないと僕は思っています。目的が同じならそれに至る方法は何でも良い。意見は違っても、向いている方向は一緒だよね、といった部分は常に確かめながらやっているつもりです。
―――お聞きしている中で、マネージャーというお仕事の専門性をひしひしと感じます。
そうですね。エンジニアとしての経験や知識が生かせる部分はありますが、僕自身は1つの専門職として勉強しながら臨んでいるつもりです。やりたいかどうかは別として、尊敬される仕事であって欲しいと思っています。
エンジニアのキャリアアップとしてのマネージャーと、そのスピリッツ
組織崩壊の危機から「自分の必要なことをやる」へ
―――元々エンジニアリングに特化された時期もあったのですよね。
情報と通信系の大学院を卒業して、2012年に新卒でiOSエンジニアとしてキャリアをスタートさせました。当時はiPhoneが普及してきたかなくらいの時期で、iOSエンジニアというポジション自体新しかったと思います。
2015年からはフリマアプリを運営していたスタートアップに移り、iOSとAndroidいずれの開発も経験しました。
―――ガッツリ開発の時期だったのですね。そこからどういった経緯でマネージャーに?
実は、フリマアプリを運営していた会社が、楽天の子会社化を経て、2018年に吸収合併されることになったんです。それにあたって、このままでは人が抜けてサービスが運営できなくなってしまうという、大袈裟に言えば組織崩壊の危機的な状況に陥ったことがありました。
そこで「今はコードを書くよりも“必要なこと”をやらないと、自分がこれまで関わってきた大切なものが消えてしまう」という気持ちになって、マネージャーという立場から組織やプロダクトに関わることにしました。マネージャーになったというよりは、必要なことをやるために最適なポジションがマネージャーだったという感じです。
―――必要に迫られたことで、本腰を入れられることになったのですね。
それもあります。ただ、後進のサービスに負けて一気に差を付けられたことで、コードを書いているだけでは足りないんだなということはそれまでにも強く感じていました。
良いエンジニアリングをするための環境は、お金、ユーザー、一緒に働くメンバーと、本当に様々なものがうまくいかないと長く続いていかないんですよね。どこかが欠けていると簡単に消え去ってしまう。それを学びました。
承認欲求がバネに…
―――人を信じて任せよう、という決断とか方向性がないと、出来ない選択だと思います。勇気要りますよね!?
僕一人がいくら頑張ったところで1日100人分の働きはできません。でも人が増えていけば、100人分の力を発揮することもできます。優秀な人に集まってもらった方が、より大きな目標を達成できるなということに思い至ったんですよね。
―――それほどの広い視野を一気に獲得なさったのも凄い…
元々、一人の人間として、世の中に価値を提供したいと思っていました。
仕事としてのスタートはエンジニアで、エンジニアとしてはプロダクトを作っていましたが、本質的にはそれは方法なんですよね。
世の中に価値を届けるための方法が、今は「プロダクトをつくるための組織を作る」というところに移ったという感じ。やろうとしていることは、それほど変わりません。なので視野が広くなった実感とかはないですね(笑)
―――iOSアカデミアの生徒さんでも、長期的なキャリアパスにおいてエンジニアのキャリアアップとしてマネージャーを志す方も居らっしゃいます。坂田さんは、今後のご自身のキャリアについてはやはりマネージャーを極めたいとお考えですか?
僕にとって、キャリアパスはそれほど重要ではなくて、マネージャーをやり続けたい!といったこだわりはありません。年齢を重ねてきて自分の生き方に開き直ってきたというのもありますが…(笑)
それよりは自分が身を置く場所において最も価値のあることをやり続けるということを意識しています。マネージャーとして一緒に働く人から「マネージャーがあなたで良かった」と言われるとやはり嬉しいです。自分のキャリアパスがこっちだから…と仕事を選ぶよりも、目の前にいる人たちに必要としてもらえるように頑張り続けることが大切かなって思っています。
現在副業で開発のお仕事もしていますが、昔の同僚から声をかけてもらったのがきっかけです。自分でも予測できないような面白いことは、いつも他人からもたらされるものだと思っているんですが、それはやっぱり、日頃から周りの人と良い関係を築けた結果として、巡り巡ってやってくるものだと思っています。
―――滅茶苦茶カッコいい…道徳的に生きることの大切さを考えさせられます。
単純に、承認欲求がものすごく強いんだと思いますよ(笑)本当は自分に自信が無くて、誰かに認めてほしいのかもしれませんね。
誰かにとって価値のある人間で居たいといつも思っていて、横に居る誰かに「あなたは必要な人だよ」って言って欲しいんだなって自分でも思います。だから今はマネージャーという良い仕事に恵まれて幸せだなと思っています。
見たことのないものを見てみたい
―――本当に素敵ですね。坂田さんのお仕事へのモチベーションとなるものは、この価値提供に対する欲求以外で何があるでしょうか?
見たことのないものを見てみたいという欲求は常にありますね。知らなかったことを知るとか、ワクワクする未来をみるとか、そんな欲求ですね。でもそれも、自分一人ではなく他人と何かすることによって叶うものだと考えています。
―――iOSDCのコアスタッフさんとしてのご活動も印象的です。
今年のiOSDCも、相変わらず良いメンバーと出来たなと思います。スタッフは30名ほどでしたが、準備から関わるコアスタッフもいれば当日だけのスタッフもいます。また、配信会場に来てくれる人もいれば自宅からリモートで参加してくれた人もいます。
iOSDCは知見を共有するイベントですが、スタッフは“共有される側”ではなく、“ある意味では、自分の時間を犠牲にしてでも参加者に良いものを提供したい”という人達なんですよね。
関わり方は多様だけど、そんな気持ちを持ったメンバーが、半年ほど前準備をしたうえで3~4日間だけ集まって、超速で良いものを出し合っていくというのはとても刺激的なんです。毎年参加してますけど、全然飽きないですね。
―――お聞きする限りでは、なんだかハッカソンみたいですね。
ある意味それに近いかもしれませんね。エンジニアっていう仕事自体が本来チームプレイなので、その意味でも本当に楽しい時間でした。駆け出しエンジニアの人も参加してみると学びがあるかもしれません。
iOSの環境を選び続ける理由
元々映像・視覚効果が好き
―――今更ですが、坂田さんなぜエンジニアライフ・マネージャーライフで「アプリ開発」に軸足を置いていらっしゃるのでしょうか?
元々映画のCGや特殊効果など視覚的な技術・視覚が好きだったんです。
今でこそAndroidも同様ですが、iPhoneはとても自然に画面の中=デジタルの空間を触れるじゃないですか。デジタルって本来実感のないものなのに、操作方法として「触る」ことによって身体感覚として知覚できる。その感覚を実現するためにインターフェースやアニメーションに様々な仕掛けが含まれていて。2007年のiPhone発表時、それが衝撃的だったんですよね。
そこから魅了されて、ずっとアプリ開発の領域にいるんだと思います。
理詰めで考える。カメラが良い運動にも。
―――カメラのご趣味も拝見しました!本業に活かされたりも?
そうですね、趣味で一応カメラを持っているんですが、カメラって瞬時に設定を切り替えたり構図を決めてパッと撮ることが多いんですよね。僕は仕事では理詰めでやるタイプなので、感覚的・瞬間的にベストなものを選び取るという写真の行為は、非常に良い頭の体操になっています。
人に依頼することの方が多いですが、会社で使う写真を自分で撮れるという意味では、仕事に役立ってますね(笑)
あと、視覚表現が好きという点では、プレゼンや勉強会等で、見たときに美しく・伝わりやすいスライドを作るのにはこだわっている方だと思います。
Appleの思想に共感
―――視覚効果以外はいかがでしょうか?
Appleの抱く「思想」的なものは今でも好きだなと感じます。プロダクトを使ってもらうことではなく、プロダクトを通してより良い生活をしてもらう、というところに重きを置いているところなど…このあたりの感覚は、僕の抱く理想もそれと通じるところがあるので。
駆け出しエンジニアへのメッセージ
自分のやりたいこと×価値貢献のバランスを
―――駆け出しエンジニアの人に向けてアドバイスを頂けますでしょうか?
まず、スキルアップしていくことはエンジニアとして一生必要な活動です。エンジニアの世界では絶え間なく新しいものが生まれてますからね。そんな世界なので、いくらかの覚悟が必要かなと。
ただ、最初のアドバイスと矛盾するようですが、スキルアップの為だけに仕事をするのは、実はあまりおすすめできません。仕事の中に、自分にとっての歓びや楽しさを見つけることがとても大切です。
スキルアップできたとしても、そこに辛い感情しかなければ続けて行くことができません。なので、「なるべく自分自身も楽しめる」ことを意識してお仕事をしてもらえるといいと思います。
そして最後に、仕事で一緒に働く人たちに「価値を届ける」ことも一緒にするようにしてください。周囲の人に必要としてもらえれば、長いエンジニア人生で、より良い経験をられるチャンスが広がっていくと思います。
―――為になりすぎる…!スキルアップでは、具体的にどのようなことをするべきでしょうか?
エンジニアの母数自体増えてきているので、今後は競争率がますます高くなると思います。エンジニアとしては、単純に技術的なスキルだけではなく、コミュニケーション力やパーソナリティの部分も磨いていく必要があると考えています。
例えば、職場でスキルアップしたいと考えていたとして、たとえ本人が態度に表しているつもりがなくても、利己的な姿勢が見え過ぎると、周囲は冷めてしまうと思うんです。それでは人の縁も繋がっていかないと思います。
一緒に働く人たちが、どんな課題を持っているのかを理解する感度や、課題を話してもらえるだけの信頼を日頃から積めるように頑張るといいのではないかと思います。
―――今後、組織の中ではどのようなエンジニアが望まれるでしょうか?
正解はわかりませんが、自分の持つスキルで、ちゃんと価値を提供するというエンジニアが増えたら良いなとは思います。技術を磨くことは、当然誰しもやらなくてはなりません。重要なのは、それを世の中に価値として提供することです。
例えば100mを9.5秒で“走ることが出来る”だけでは不十分で、エンジニアなら“実際に走る”ことが求められます。知識やスキルを得るだけでなく発揮することも意識して欲しいと思います。
それから、新しい技術だけにいつも価値があるわけではありません。例えば同じ会社の営業さんが顧客管理で困っていたら、いきなり大規模なシステムを組まなくてもちょっとしたスクリプトを書くだけで業務を便利にしてあげることができるかもしれません。
相手の課題をちゃんと理解して、必要とされる基準・状態に見合ったものを提供できることもとても大切だと思います。
「エンジニア」たるには
―――「エンジニア」はつくづく、技術だけでは生きられないのですね…!
そうですね。「プログラマ」と「エンジニア」は異なるものだと僕は思っていて、僕自身は自分を「エンジニア」だと考えています。この「エンジニア」という仕事は本来、プログラムを書くのが仕事ではなく、世の中の課題を科学という道具を以て解決していくというものだと思っています。
僕がエンジニアを選んでいるのは、そういう形で「価値提供」ができるからですが、そのために必要なものは多いです。例えば、そもそも解決すべき課題を見つけるために、周りの人がやってることに興味を抱くといったことも非常に大事ですね。技術だけでなく、社会や人に対する興味も必要だと思います。
―――それでは最後に、「エンジニア」のキャリアアップ先としての「マネージャー」に求められる要素についても教えてください!。
僕自身は、他人と何かをすることに喜びを見出すことができるので、この性格はマネージャーという仕事に向いているかもしれないですね。
マネージャーの心構えとしては、まず「人は思い通りにならない」というのを知っておくことです。完璧主義を捨てる必要があります。僕は元々完璧主義者に近いんですが…(笑)
他人は、自分が過ごしてきたものと同じ時間を違う生活で過ごしてきているわけで、違って当たり前です。思い通りにもならないし、変わらない。それを弁えて謙虚になることが必要です。思い通りにならないことが辛い、他人と向き合うのが辛い人は、キツいかもしれません。
既にお話したように、全てを自分一人でできることはあり得ないので、誰かに任せるしかないんです。自分からみて100点満点ではなかったとしても、任せた相手が楽しめていて必要十分な結果を得られれば大丈夫なんです。
そういう両者にとっての合格ラインを見つけられるとマネージャーとしてうまくやっていけるかもしれません。頑張ってくださいね。
インタビューを終えて
ご自身の性質を真っ直ぐ見据え、自分はこういう人間なのだと恐れず向き合ったうえで、他人に価値を提供することを繰り返して現在までの華麗なご功績を重ねられた坂田さん!「エンジニア」を知り、動かしてより良いプロダクトを作るという「マネージャー」のお仕事の尊さを垣間見て、難易度高すぎ…!と思うと同時に、このように自己研鑽を積むことで無限の可能性が開けるのだなと頼もしく感じます。坂田さん、本日は貴重なお話、本当にありがとうございました!
坂田さんの
Twitter… https://twitter.com/huin
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監修者
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エンジニア経験0の状態から1年間独学で勉強して独立
さまざまなiOSアプリの開発に携わる
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